歯周病の原因と病態
歯周病は、歯を支える骨や歯肉などが細菌感染によって破壊される病気です。主な原因は、歯と歯肉の間にたまる歯垢(プラーク)に含まれる細菌です。適切なブラッシングができていないと、細菌が増殖し、歯ぐきに炎症を引き起こします。これが「歯肉炎」の段階です。
歯肉炎が進行すると、歯ぐきが腫れたり出血しやすくなり、やがて歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていく「歯周炎」となります。歯周炎が悪化すると、歯がぐらつき、最終的には抜け落ちてしまうこともあります。

歯周病の症状
歯磨き時の出血
歯肉が赤くなる
歯肉が腫れる
歯肉の違和感
歯がグラグラする
歯と歯肉の境目から膿がでる
歯肉の痛み
歯が抜ける
歯周病の初期段階では自覚症状が乏しく、歯磨きのときの出血以外の症状は重度の歯周病にならない限りあまり感じられません。このため、進行していても自分では気づきにくく「静かな病気(silent disease)」と呼ばれることもあります。
患者自身が歯周病の悪化を認識しにくいという特徴があるため、定期的な歯科検診やプロによるクリーニングが、早期発見・治療のために非常に重要とされています。
進行した歯周病により、歯を支える組織が破壊され、結果的に歯を失うリスクが高まるとされています。現在の日本では歯の喪失の最も大きな要因は歯周病であると報告されています。

歯周病と全身疾患の関わり

歯周病と全身疾患の関連を示したのが上の図です。近年歯周病は口腔内だけの病気ではなく、全身の病気を悪化させる作用があることがわかってきています。
歯周病は慢性的に炎症を引き起こすため、免疫細胞が産生する過剰なサイトカインが疾患を憎悪させたり、歯周病原菌の一部が血管から全身に駆け巡り、様々な臓器に悪さをすることが報告されています。最近の話題では、アルツハイマーの患者さんの脳を死後に調べたところ、P.gingivalisを始めとする、歯周病原菌が脳で見つかりました。動物実験でこの菌がだす酵素を阻害すると、アルツハイマーの症状が改善したと報告されており、アルツハイマーの原因である可能性が示唆されています。
他にも様々な病気に関わりがある可能性が報告されていますので、体の健康のためにも歯周病の予防・治療を心がけましょう。
参考文献
Bui, Fiona Q., et al. "Association between periodontal pathogens and systemic disease." Biomedical journal 42.1 (2019): 27-35.
歯周病の治療
治療の流れ

口腔衛生指導の重要性
口腔衛生指導とは、正しい歯磨きやフロス、歯間ブラシの使い方などを患者さんに学んでいただくことで、歯周病治療の成功にとって極めて重要な役割を果たします。たとえば、我々歯科医療従事者が行う専門的なプラークの除去(PMTC)だけでは、患者自身が日常的に行うプラークコントロールが不十分(歯磨きがあまりうまくできていない)な場合、治療効果は持続しにくいことが示されています。実際、Needlemanらによる総論では(2005年および2015年)では、口腔衛生指導を併用しないPMTCの効果は限定的であり、適切なセルフケアとの組み合わせがなければ、プラークの除去や歯肉炎の改善に十分寄与しないと結論付けられています。言い換えますと、歯磨きが下手な状態で治療をいくら行ってもk長期的には効果がほとんどないということです。
また、日本歯周病学会が発表している「歯周治療ガイドライン」でも、患者さん自身が日々正しいセルフケアを行うことが、治療の成功と歯周病の予防において非常に大切だと強調されています[
このように、口腔衛生指導は、毎日のセルフケアを通じて歯と歯茎の健康を守るために欠かせない取り組みなのです
参考文献
Needleman I, Suvan J, Moles DR, Pimlott J. A systematic review of professional mechanical plaque removal for prevention of periodontal diseases. J Clin Periodontol. 2005;32 Suppl 6:229-82. doi: 10.1111/j.1600-051X.2005.00804.x. PMID: 16128841.
Needleman I, Nibali L, Di Iorio A. Professional mechanical plaque removal for prevention of periodontal diseases in adults--systematic review update. J Clin Periodontol. 2015 Apr;42 Suppl 16:S12-35. doi: 10.1111/jcpe.12341. PMID: 25495962.
日本歯周病学会編 歯周治療の指針2015
ルートデブライドメント(SRP)とは
SRPは、歯周病治療の基本となる非外科的治療法です。歯と歯根表面に付着する歯垢や歯石、細菌由来の毒素を除去し、歯根面を平滑化することで、歯周ポケット内の細菌再付着を防ぎ、歯周組織の自然な治癒を促進します。
SRPの治療方法
治療は、まず局所麻酔を行った上で、専用のスケーラーや超音波スケーラーを用いて、歯とその根の表面から歯垢・歯石を丁寧に除去します。特に、歯根面の不整な部分を平滑にすることで、再び細菌が付着しにくい環境を整えることが目的です。患者様ご自身によるブラッシングやデンタルフロスなどのセルフケアと併用することで、治療効果を長期にわたって維持できます

SRPの効果
SRPにより、歯周ポケットの深さの縮小、歯肉の炎症の軽減が期待できます。実際、定期的なルートデブライドメントとセルフケアの組み合わせにより、歯周病の進行の抑制、改善することが臨床研究で示されています
SRPの副作用と注意点
SRPは一般的に安全な治療法ですが、一部の患者様には以下のような一時的な副作用が現れることがあります。
・歯肉の一時的な痛みや腫れ
治療直後は、歯肉が敏感になり、軽い痛みや腫れを感じることがありますが、通常は数日以内に軽減します。
・知覚過敏
根面が露出するため、一時的に冷たい飲食物に対して感受性が高まる場合があります。
・軽度の出血
治療中や直後に、特に歯肉が炎症を起こしている場合は出血がみられることがあります。
これらの症状は、ほとんどの場合、適切なケアと経過観察により早期に改善します。また、感染症のリスクは非常に低いとされていますが、万が一症状が長引く場合は早にご連絡ください
参考文献
Cobb, C.M. (2002). Clinical significance of non‐surgical periodontal therapy: An evidence‐based perspective of scaling and root planing. Journal of Clinical Periodontology, 29(Suppl 2), 4-8.
歯周外科処置とは
歯周外科処置は、重度の歯周病や非外科的治療(SRP)だけでは十分な改善が得られない場合に行われる治療法です。
処置には、フラップ手術、骨切除術、そして歯周組織の再生を目指す再生療法などが含まれます。これらの手法により、歯周ポケットの深さを縮小し、炎症を抑制、さらには失われた歯周組織の再生を試みます
治療方法
・フラップ手術
歯肉を切開し、歯周ポケット内を十分に視認できる状態にして、根面のクリーニングを徹底的に行います。その後、歯肉を再配置・縫合することで、ポケット深度を縮小し、組織の回復を促進 します

・再生療法
歯周組織が大幅に失われた場合、再生療法が適用されます。たとえば、リグロスを使用した誘導療法では、FGF-2と呼ばれる成長因子を用いて、細胞の増殖と組織再生を促します。
治療の効果
歯周外科処置により、以下の効果が期待されます。
・歯周ポケットの縮小
フラップ手術により、歯周ポケットが浅くなります、嫌気性菌の再付着を抑制します。
・炎症の改善
徹底したクリーニングにより、歯肉炎の症状が軽減されます。
・組織再生
再生療法を組み合わせることで、失われた骨や歯周組織の再生が促進され、歯の長期保存につながります
副作用と注意点
歯周外科処置は一般的に安全ですが、以下のような一時的な副作用が報告されています。
・術後の痛みや腫れ
手術直後は局所麻酔が切れた後、痛みや腫れが現れることがありますが、通常は数日以内に軽減します。
・出血
手術中や術後に軽度の出血がみられることがありますが、適切な止血処置により管理されます。
・知覚過敏
歯根面が露出するため、一時的に冷たい飲食物に対して敏感になる場合があります。
これらの症状はほとんどの場合、適切な術後ケアと定期的なフォローアップにより早期に改善されます
再生療法の症例

赤線部分に歯槽骨の吸収を認めるたため、エムドゲインとバイオオスを使用した再生療法を行った。術後8ヶ月後吸収部位のx線不透過像が増しており、歯槽骨の再生していると思われる。

赤線部分に歯槽骨の吸収を認めるたため、エムドゲインとバイオオスを使用した再生療法を行った。術後1年後後吸収部位のx線不透過像が増しており、歯槽骨の再生していると思われる。