根管治療とは

歯の根の中の神経や血管など(あわせて歯髄と呼ばれます)が通っている管を根管と言います。 歯髄は根の先端から歯の中に入り、歯の成長発育に重要な役割を果たします。 しかし、成人になり歯が成長したあとは、歯髄がなくても根のまわりからの栄養供給によって歯は生存できます。
歯の根の治療である根管治療(歯内療法とも呼ばれます)は歯髄が炎症や感染を起こした時に必要になります。 原因は深い虫歯、歯の亀裂、外傷などです。炎症や感染をそのまま放置しておくと、 歯が痛んだり、根の周囲の組織に炎症が広がったり、歯肉が腫れたりします。 場合によってはリンパ節が腫れたり発熱したりと全身的にも影響が出ることもあります。 根管治療によって、これらの症状が軽減したり、治癒したり、予防できたりするのです。
根管治療では、痛んだ歯髄を除去して、根管を注意深く清掃し、 再度の感染を防ぐために根の中に詰め物をします。このように歯髄を除去する治療法を抜髄と呼びます。 一方、以前に根管治療が終了している根が再び感染してしまった場合にも、根管治療が行われます。 この場合の治療法は、感染根管治療と呼ばれます。
歯内療法学会ホームページより引用

根管治療の模式図

根管治療の成功率はどれくらい?

世界標準の根管治療を行った場合の成功率は
初回の根管治療 約90%以上
二回目以降の根管治療 約70%

(ただし根管形態が破壊されていた場合は約50%)

参考文献
Gorni, Fabio GM, and Massimo M. Gagliani. "The outcome of endodontic retreatment: a 2-yr follow-up." Journal of Endodontics 30.1 (2004): 1-4.
Salehrabi, Robert, and Ilan Rotstein. "Endodontic treatment outcomes in a large patient population in the USA: an epidemiological study." Journal of endodontics 30.12 (2004): 846-850.

日本の一般歯科における根管治療の成功率

日本歯内療法学会雑誌 32.1 (2011): 1-10より引用

このグラフは東京医科歯科大学のむし歯外来に2005年9月から2006年12月までに受診した患者さんのレントゲンから、根管治療の状態を精査し、治療が失敗した割合を示しています。
概ね歯種によりますが50-70%の治療が失敗していることがわかります。
主に治療法の違いによるものと考えられますが、世界標準の治療法で使用する器具類を下記に示して行きたいと思います。

参考文献
須田英明. "わが国における歯内療法の現状と課題." 日本歯内療法学会雑誌 32.1 (2011): 1-10

ラバーダム防湿法

ラバーダム防湿法

 ラバーダム防湿法とは、治療する歯をゴム製のシートで覆い、口腔内から隔離する方法です。これにより、唾液を介して口腔内の細菌が根管内に侵入するのを防ぐことができます。

 根管治療において最も重要なのは、根管内の汚染や歯髄を可能な限りきれいに除去することです。しかし、ラバーダム防湿を行わない場合、唾液を介して細菌が根管内に入り込み、治療の成功率が低下する可能性があります。実際に、Van Nieuwenhuysenらの研究では、ラバーダムを使用しない根管治療は、使用した場合と比べて有意に治療成績が劣ると報告されています。

 そのため、アメリカ、ヨーロッパ、日本を含む各国の歯内療法学会(根管治療を専門とする学会)では、ラバーダムの使用を必須と明記しています。しかし、日本の一般開業医では、この方法がほとんど使用されていないのが現状です。JEA(日本歯内療法学会)の調査によると、会員の25.4%、一般歯科医師のわずか5.4%しか毎回ラバーダムを使用しておらず、これが治療成績の悪化の一因と考えられています。

日本歯内療法学会雑誌 32.1 (2011): 1-10より引用

参考文献
Van Nieuwenhuysen, J‐P., M. Aouar, and William D'HOORE. "Retreatment or radiographic monitoring in endodontics." International endodontic journal 27.2 (1994): 75-81.
須田英明. "わが国における歯内療法の現状と課題." 日本歯内療法学会雑誌 32.1 (2011): 1-10

マイクロスコープ(歯科用実体顕微鏡)の使用

歯科用マイクロスコープ

専門医が根管治療を行う場合は、マイクロスコープを使用して治療を行います。このマイクロスコープを使用することにより、4-20倍程度の拡大視野で治療することができ、いままで感覚や手探りで行っていた治療を、マイクロスコープを使用することで、根管内の細部を目で確認しながら治療を行う事が可能となり、治療精度の向上を可能としました。

イメージ図

根管口の見落とし率はマイクロスコープの使用で低下することが報告されています。

須田 2011より引用

超音波振動を併用した根管洗浄

超音波スケーラー

根管の形態は非常に複雑で、途中で分岐していたり、扁平に細くなっていたりするため、通常の器具のみでは完全に根管内を清掃することが困難です。そこで、器具が届かない部分の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使用します。さらに、この消毒液に超音波振動を与えてやることにより、より効果的に根管名へ行き渡らせることができ、洗浄効果を高めることが可能です。

根管のマイクロCT画像

参考文献
Van der Sluis, L. W. M., et al. "Passive ultrasonic irrigation of the root canal: a review of the literature." International endodontic journal 40.6 (2007): 415-426

CT検査

 先ほども述べたように、根管は非常に複雑な形態をしているため、問題のある部位や根の湾曲方向を通常のレントゲンでは正確に把握できないことが多いです。

 特に大臼歯(奥歯)は複数の根を持つため、2次元のレントゲン画像では診断が困難になるケースが少なくありません。しかし、CT画像を用いることで詳細な情報を得ることができ、より正確な診断と治療計画の立案が可能になります。これにより、治療の成功率を向上させることができます。

ニッケルチタンファイル

ニッケルチタンファイルを装着したエンジン

 根管を清掃する器具は「ファイル」と呼ばれ、現在ではさまざまな種類が存在します。大きく分けると、従来から使用されているステンレススチールファイル(SSファイル)と、より柔軟性に優れたニッケルチタンファイル(NiTiファイル)の2種類があります。

 従来のSSファイルは硬く、湾曲した根管の治療には適していませんでした。しかし、現在では柔軟性に優れたNiTiファイルが主流となり、世界中で広く使用されています。NiTiファイルを使用することで、複雑に湾曲した根管にもスムーズに追従し、より効果的に清掃することが可能となりました。

 また、2009年にCheungらが歯学部生および大学院生を対象に行った大臼歯の根管治療の成功率に関する研究では、NiTiファイルを使用した場合の方が、SSファイルを使用した場合よりも治療成績が優れていたと報告されています。

上顎左側第一大臼歯の根管治療例
遠心頬側根にS字状の湾曲を認める
症例 金子龍太
上顎右側第一大臼歯の根管治療例
近心頬側根に強い湾曲を認める。
症例 金子龍太

参考文献
Cheung GS, Liu CS. A retrospective study of endodontic treatment outcome between nickel-titanium rotary and stainless steel hand filing techniques. J Endod. 2009 Jul;35(7):938-43. doi: 10.1016/j.joen.2009.04.016. PMID: 19567311.

歯根端切除術

american association of endodontists
ホームページより引用

 根管治療は成功率の高い治療法ですが、必ずしも100%治るわけではありません。特に、再根管治療は初回の治療に比べて成功率が低くなる傾向があります。(前述参照

 しかし、根管治療が失敗した場合でも、すぐに抜歯を選択するわけではありません。代わりに、「外科的歯内療法」と呼ばれる外科的処置によって対応することが可能です。この治療法では、歯肉を切開し、歯根の先端からアプローチします。(上記の図参照)

 近年では、マイクロスコープを使用することで、成功率が約90%まで向上しています。一方、従来の肉眼による処置では成功率が約60%程度にとどまっていました。
参考文献
Setzer, Frank C., et al. "Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature—part 1: comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery." Journal of endodontics 36.11 (2010): 1757-1765.